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【生命の海科学館】 講演内容紹介

記事ID:0069905 更新日:2020年2月19日更新

カンブリア爆発の全体像に迫る  舒 徳干氏 

講演会写真

 カンブリア爆発により、最古の脊椎動物ミロクンミンギア目(ミロクンミンギア、 ハイコウイクチス 、ジョンジァンイクチス)が生み出されました。今日は、澄江で発見されたこの魚類の重要性について、内容を三つに分け講演します。まず初めに、進化論についてお話し、地球と生命の進化史におきた主な事件を振り返ってみます。次に、カンブリア爆発の秘密を解くための最も重要なカギとなる、澄江動物群化石について詳しくお話しします。最後に、最古の魚類ミロクンミンギア目の科学的な意義について述べたいと思います。

 

1.     進化論の歴史と生命の進化史

 進化論には約200年の歴史があります。1809年にラマルクが著作『動物哲学』の中で進化論を提唱したことが、近代進化論の始まりとされます。ダーウィンが1859年に自然選択に基づく生物進化の考えをまとめた『種の起源』を出版し、自然科学の世界に大きな影響を与えました。1900年にメンデルの法則が再発見され、遺伝学の基礎となりました。

 その後、ドブジャンスキーらにより進化生物学を遺伝学と統合させた「総合進化論」とも言うべき、巨大な思想体系を持つ、「ネオダーウィニズム」が提唱されました。これにより進化論が生命科学の核心であると認識されるようになりました。木村資生による「分子進化の中立説」もネオダーウィニズムの一部を成しています。この説は、分子レベルで見ると突然変異の大部分は、個体にとって有利でも不利でもなく、中立というものです。

 こうして、進化論が生命科学の核心であると認識されるようになりました。そして人々は、進化論は実証されるべきであると考えるようになりました。化石による進化論の証拠が求められたのです。

 生物の進化の全過程を理解する事で、ミロクンミンギア目の持つ意義を理解できます。

 約38~40億年前に最初の生命が誕生し、生命は簡単な構造から複雑なものへと進化し、やがて人類が誕生しました。進化の原動力は遺伝子の突然変異、自然淘汰、適応です。

 酸素が無い時代から人類が登場するまでには、三つの重要な出来事がありました。一つは藍藻が地球上に酸素を増やした事です。20億年前、海洋ではストロマトライトと呼ばれる岩石を造り出した藍藻が活発に活動していました。この生物の働きにより、地球は酸素のある環境に変わりました。次が細胞核を持った真核生物の誕生です。原核細胞はどのようにして、細胞核やその他の細胞内小器官を持つ真核生物に進化したのか、この難問に、マーギュリスは「細胞内共生説」を唱えました。そして、真核生物は地球上で最初に出現した原始的な後生動物である海綿動物につながります。海綿動物は口や消化管がなく、筋肉も神経細胞も持っていません。海綿動物よりさらに進化した動物は、イソギンチャクのような触手を持った刺胞動物です。この動物群は原始的な口や消化官、筋肉、神経系統を持っています。

 その次にカンブリア爆発が起こります。これにより動物界の基本的な構造が出来上がり、脊椎動物の始祖に当たるミロクンミンギア目が誕生したのです。

 

2.     澄江動物群化石

  カンブリア爆発 を解明する上で有用な動物化石群として、 カナダのバージェス動物群 中国の澄江動物群 が挙げられます。バージェス動物群の研究は100年を超す歴史があり、これまでに多くの功績を残しました。

 動物界は3つの大きなグループ、即ち、基礎となる二胚葉動物群と、旧口動物群、新口動物群から成り立っています。バージェス動物群からは、旧口動物群に属する各動物門が全て出現しています。しかし新口動物群の化石は保存状態が不完全で、初期の動物系統樹全体を描き出すことは困難でした。又、バージェス動物群はカンブリア紀中期に当たり、カンブリア爆発のスタート地点から少々時間が経っていますので、爆発当時の詳細を解明することができません。そこで澄江動物群に期待が寄せられたわけです。

 旧口動物と新口動物の基本的な区別は個体発生初期に口と肛門が逆転する事にあります。これにより新口動物は新陳代謝の革命を起こし、捕食、呼吸の効率を大幅に引き上げる事ができました。分子生物学的には、旧口動物と新口動物の形態の違いを制御しているのは、「ホメオティック遺伝子群=ホックスジーンクラスター」です。ホックスジーンとは動物の体節構造を決定する遺伝子です。脊椎動物のホックスジーンクラスターは無脊椎動物とは異なり、無脊椎動物1本に対して4本あります。この差異が脊椎動物の進化を導きました。

 我々の研究の主なテーマは、現在の動物系統樹が5億数千年前にはどう形成されていたかを、明らかにすることです。西北大学研究チームは澄江で、ユンナノズーン、カタイミルス、ミロクンミンギアなどの新口動物を発見しました。これら新口動物群に属する動物、特に最古の脊椎動物であるミロクンミンギアの発見により、動物界全体の進化系統樹を描くことができました。

 

3.     澄江動物群化石 の進化論上の意義

 カンブリア爆発について、従来の進化論上の仮説は何れも進化の段階性を捉えていませんでした。澄江動物群では、二胚葉動物群と旧口動物群が繁栄していただけでなく、新口動物群が出現しました。これら化石から読み取った情報に基づき、新しいカンブリア爆発の仮説を立てることができます。

 まず先カンブリア時代エディアカラ紀に、二胚葉動物群が最初の爆発を起こします。これらはベンド生物と呼ばれ、動物でも植物でもありません。世界の各地に広く分布していますが、オーストラリアのエディアカラの地層から見つかる化石群が代表的です。カンブリア紀になると微小硬骨格を持つ旧口動物群が二つ目の爆発を起こし繁栄します。そして三つ目の爆発により新口動物群が登場します。新口動物群の爆発の時期はこれまで特定できませんでしたが、ミロクンミンギア等の新口動物が発見されたことにより、爆発はカンブリア紀のアトダバニアン期と解明されました。

 動物界を形成する三つの群は、カンブリア爆発の三段階に合った形で形成されていることがわかります。我々の提唱する三段階爆発の仮説は、「カンブリア爆発は地球上の動物を新たに作り出した事件で、三段階を経て全ての動物界の系統樹を完成させた。」と言えます。

 

 最後に簡単なまとめをしておきたいと思います。澄江動物群研究の核心部分は初期の新口動物群の真相を系統樹で示した点、そして、カンブリア爆発三段階説を提示できた点です。頭と脳を備えた 最古の魚類ミロクンミンギア類 の発見を嬉しさをもって見届けたいと思います。