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ほうほうとエゾフクロウの啼く深夜生家を譲る書類に印押す 藤林 正則(北海道札幌市)
独り居の姉からかかる長電話AI人形の声がまじれる 春田 国子(岐阜県美濃市)
胎内のわが子へ今朝もゆつくりとひらがなのみで呼びかけてみる 熊谷 純(広島県広島市)
公園にシーソーをする笑ひ声空より地より交互にきこゆ 山本 久子(長崎県北松浦郡佐々町)
停年後楽しむはずの菜園が発芽率まで記録する癖 田中 孝和(愛知県蒲郡市)
施設より請求書届く日暮れどき今月も母の顔見に行けず 阿波賀優子(愛知県名古屋市)
生家には誰が住むらん車窓よりたわわに実る柿を見て過ぐ 竹下 博子(愛知県新城市)
君は字も上手だったと夫は言う病の今には何も触れずに 太田 浩子(愛知県名古屋市)
廃校の時計は今日も八時半誰も気にせず針も動かず 吉本 雄二(東京都大島町)
携帯のや行の君をまだ消せぬ巡る浅春もう三回忌 浦田 穗積(佐賀県唐津市)